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▶ 離婚で請求できるお金と分け合う資産って?まずはここから整理しよう!
離婚に関わるお金には「婚姻費用」や「慰謝料」だけでなく子どものための「養育費」や、将来の年金に関わる「年金分割」、「財産分与」といった大切なお金の取り決めもあります。
この記事では、それぞれのお金について「どれくらいが目安なの?」「どうやって金額が決まるの?」といったポイントを、わかりやすくまとめました
「知らなかった…」と、ならないように、ぜひ一緒に確認しましょう。
1.婚姻費用
「家族で一緒に住んでいたときの生活水準を保つために、収入の少ない方が収入の多い方にもらう別居中の生活費」のことです。
しかし、「別居中の妻(夫)とまだ自立していない子どもが最低限暮らせるためのお金」と思われている人も少なくないのではないでしょうか。
離婚が成立するまでの生活を支える大事な費用なので、しっかりと覚えておきましょう。
※ただし、実際の金額は、家族構成や収入のバランスで大きく変わります。
【婚姻費用に含まれるものの具体例】
- 居住費
- 水道光熱費
- 食費
- 子どもの養育費
- 医療費
なぜもらえる(支払う)の?
法律上、結婚している夫婦には、互いに婚姻費用(生活費)を分担・夫婦として同程度の生活水準を維持すべきであるという考えがあります。(これを生活保持義務といいます。)
そのため、別居していても、経済力のある方が、収入の少ない方や子どもの生活費を負担する義務があるのです。
ただし、相手がすんなり応じてくれない場合もあるので、早めに相談や記録が大切です。
婚姻費用は、「支払ってほしい」と伝えた日から、離婚が成立するか再び同居するまでのあいだ、分担してもらうことができます。
算出方法
婚姻費用の金額には、法律で決まったルールがあるわけではありません。
まずは夫婦間の話し合いで決めますが、夫婦間で決まらない場合は「算定表(※)」とよばれる基準をもとに家庭裁判所に決めてもらう(調停を申し立てる)ことができます。
※東京家庭裁判所公式サイトに掲載されている最新版(令和元年12月改定)
【算定表で参考にされる項目】
- 夫婦それぞれの収入
- 子どもの人数
- 子どもの年齢
- 自営業者か会社員か
平均的な目安の金額
夫が会社員で年間の給料総支給額が750万円、妻が専業主婦である場合、妻が夫に請求できる額は月額14万円から16万円程度とされています。
夫が自営業者で課税所得額が600万円の場合、妻が夫に請求できる額は月額16万円から18万円程度となることがあります。
※課税所得額とは、所得税を計算するベースとなるもので、手取りとは異なります。1年間の収入から経費や所得控除(基礎控除、社会保険料控除、扶養控除など)を差し引いた金額です。
金額の目安は、家庭裁判所が出している算定表が参考になります。
▶︎ 婚姻費用・養育費算定表はこちら(各PDFリンク)
払ってもらえないときの対応
話し合いや調停で婚姻費用を決めたのに、相手が払ってくれない…というケースもあります。
そんなときは、「強制執行」という方法で、相手の給料を差し押さえることができます。
最近の法改正で、たとえ1回でも未払いがあると、その後の分もまとめて差し押さえできるようになりました。
この差し押さえでは、相手の給料のうち、税金や社会保険料を引いたあとの「2分の1まで」が対象になります。
※残りが66万円以上ある場合は、そこから33万円を引いた額まで。
2.慰謝料
離婚が相手(自分)の浮気・不倫、暴力やひどい言葉などのDV・モラハラが原因で、心に深い傷を負った(負わせた)ときに、「その苦しみに対して払ってもらえる(払う)お金」のことです。
なぜもらえる(支払う)の?
「離婚の原因を作った側」が、相手に精神的苦痛を与えた責任を取るために払います。
そのため、「浮気や不倫」「DV(家庭内暴力)」「モラハラ(精神的な暴力)」などの明確な原因(=法律的な落ち度)があるときに、請求できる(される)可能性があります。
※これらの行為を法律用語では『不法行為(不貞行為も含む)』や『有責行為』と呼びます。
一方で、「性格の不一致」や「価値観の違い」など、どちらにも明確な責任がない場合は発生しません。
算出方法
慰謝料の金額には、法律や裁判所で決まったルールがあるわけではありません。
まず夫婦間の話し合いで決めますが、夫婦間で決まらない場合は家庭裁判所に決めてもらう(調停を申し立てる)ことができます。
慰謝料を支払う義務は男女問いません。
また、もし夫婦の両方に離婚原因になるようなことがあった場合は、どちらの請求も認められないこともあります。
【慰謝料を決めるときに参考にされる項目】
- 離婚の原因となった相手の行為の度合い
- 結婚生活の長さ
- 自立していない子どもの有無
- 夫婦双方の経済的な状況
- 当事者の社会的地位や収入。
- 被害者が受けた精神的苦痛の深刻さ。
- 不貞行為に至った経緯(例:不倫関係に至る経緯が相手方配偶者の主導であった場合など)
◎不法行為・不貞行為・有責行為の説明図
平均的な目安の金額
実際には、200万円前後になることが多いとされます。(最高でも500万円程度までが目安)
短期間の結婚だったり、責任が軽かったりすると100万円以下になることもあります。
逆に、暴力や浮気がひどかった場合などは、500万円近く認められることもあります。
浮気相手(不倫相手)への請求
浮気相手(不倫相手)に対しても慰謝料を請求でき、多くの場合に認められる慰謝料は100万円から300万円程度です。
ただし、相手が既婚者とを知らなかった場合や、不倫の主導権が配偶者にあった場合など、事情によっては減額されたり、認められないこともあります。
請求できる期間
慰謝料は、原則として不貞行為の事実を知ったときから3年が経過すると請求できなくなります。
離婚した時から3年ではないので注意が必要です。
3.養育費
養育費とは、子どもが自立できるようになるまでにかかる費用のことです。
未成年の子どもがいる場合、親権者となる側は相手に養育費を請求できます。
【養育費に含まれるもの】
- 食費
- 医療費
- 教育費
なぜもらえる(支払う)の?
親には子どもを経済的に支える義務があります。(扶養義務)
離婚しても親子関係は続くので、親である以上、子どもの健全な成長のために、子どもの生活や教育のための費用を負担する必要があるのです。
親権を相手に譲った場合は、たとえ自身が女性であっても養育費を支払う側になる可能性があります。
また、子どもが支払う親と同程度の生活水準を維持できるようにすることが基本と考えられています(生活保持義務)
算出方法
養育費の金額には、法律で決まったルールがあるわけではありません。
夫婦の収入、子どもの人数や年齢、生活状況など、いろんな条件をもとに金額が決まります。
まずは夫婦間で話し合いますが、話し合いで決まらない場合は、家庭裁判所が「算定表」という基準を使って決めてくれます(調停を申し立てます)。
※東京家庭裁判所公式サイトに掲載されている最新版(令和元年12月改定)
平均的な目安の金額
支払う親の収入が平均的な場合、子どもが小さい間は月額5万円前後になることが多いです。
高校や大学など進学にかかる教育費が増えると、それにあわせて養育費の金額も増えるケースがあります。
どこまでの子どもが対象?
「子ども」というと未成年のイメージがありますが、実際には経済的に自立できていない大学生なども対象になることがあります。
たとえば、高校を卒業して就職し自立できる場合は養育費の対象とならない一方、高校卒業後に大学に進学する場合、子どもが大学を卒業するまで養育費を受け取れるケースもあります。
払ってもらえないときの対応
養育費の取り決めを「公正証書」で残しておくと、「払ってくれない…」というときにも、すぐに給料や預貯金を差し押さえるなどの強制執行ができます。
また、家庭裁判所には「履行勧告」や「履行命令」という制度もあるので、必要に応じて相談しましょう。
※履行勧告:家庭裁判所が支払いうよう言ってくれる。これ自体に法的な強制力はない。
履行命令:期間を定めて支払いを命じるもの。従わない場合、10万円以下の過料の可能性がある。
年金分割
年金分割とは、結婚していたあいだに夫婦のどちらか一方、または両方が納めた厚生年金・共済年金の記録を離婚後に2人で分け合える制度のことです。
将来受け取る年金そのものの金額を直接分けるのではありません。
※厚生年金・共済年金の記録:年金額の算定基礎となる「保険料納付記録(標準報酬額)」を指す。
なぜ分けるの?
この制度は、特に、夫(妻)がサラリーマンで妻(夫)が専業主婦(主夫)の場合など、夫婦が離婚した際に妻(夫)が国民年金(基礎年金)の権利しかないのに対し、夫(妻)はそれに加え被用者年金(厚生年金・共済年金)の権利も持ち、年金額に格差が生じるという問題を解消するために導入されました。
結婚していたあいだに夫婦のどちらか、あるいは二人ともが働いて厚生年金を払っていた場合、将来もらえる年金の“もとになる金額”は、それぞれ個人に積み重なっていきます。
しかし、実際には、その間二人で助け合って暮らしてきたわけで、また、どちらかが専業主婦(主夫)だったとしても、もう一方が仕事に集中できたのは、家のことを支えてくれたおかげです。
だから、「年金の記録も“二人で積み立ててきた成果”として分け合う」というのがこの制度の考え方です。
算出方法
分割を受けた側は、将来的に自身の年金受給資格要件を満たした場合に、増えた保険料納付記録を基礎として算定された年金を受け取ることができます。
対象になるのは、「厚生年金」や「共済年金」の記録で、自営業や専業主婦などが加入している「国民年金」は、分割の対象になりません。
平均的な目安の金額
年金分割には2つの方法があります。
- 合意分割:夫婦で話し合って、どれくらい分けるかを決める方法です。(最大2分の1まで)
合意できないときは、家庭裁判所に調停や審判を申し立てて決めてもらえます。 - 3号分割:2008年4月1日以降は、専業主婦などの国民年金の第3号被保険者だった場合は、相手方の同意がなくても当然に2分の1に分割されます。
手続きできる期限
年金分割の請求は、離婚が成立した日から2年以内に行う必要があります。
うっかり忘れてしまうと、分割できなくなってしまうので注意が必要です!
財産分与
財産分与とは、結婚していたときに協力して貯めたもの(共有財産)を公平に分ける制度です。
原則として夫婦で半分ずつ分け合います。
たとえ名義がどちらか一方のものでも、実質的に夫婦で協力して得たものであれば対象になる可能性があります。
【財産分与の対象になるもの】
- 現金
- 預金
- 自動車
- 退職金
- 不動産
- 生命保険
- 有価証券
- 年金
他に、結婚していたときに組んだ住宅ローンや借金も含まれますが
独身のときに貯めた貯金や受け取った不動産などは含まれません。(特定財産)
なぜ分けるの?
財産分与は、ただの“お金の分け合い”ではなく、3つの要素があります。
清算的要素(夫婦で築いた財産を分ける)
結婚していたときに夫婦で協力して貯めたものを、清算として公平に分けること。
基本となる要素です。
慰謝料的要素(心の傷への補償)
不倫や暴力などで、傷つけられた側への精神的な苦しみへの補償(慰謝料)としての意味合い。
財産分与だけで足りない場合は、別に慰謝料を請求することもできます。
扶養的要素(離婚後の生活を一時的に支える)
病気や育児などで離婚後すぐに働けない相手の生活を、一時的に助ける目的で財産を多めに分けることがあります。
「働けるのに働かない」「自立する気がない」場合には、対象になりません。
算出方法
基本的には「夫婦で折半(2分の1ずつ)」が原則です。
でも、以下のような要素によって話し合いで調整されることもあります。
- 一方の貢献度(仕事・家事・育児など)
- 財産の内容や価値
- 住宅ローンなどの負債の有無
- お互いの経済状況 など
話し合いでまとまらない場合は、家庭裁判所で「調停」や「審判」を申し立てて決めてもらうことになります。
平均的な目安の金額
金額は家庭ごとに本当にさまざまです。
たとえば、夫婦で築いた財産が1,000万円あれば、原則500万円ずつ。
でも、持ち家に住宅ローンが残っていれば、その分が差し引かれます。
なので、まずは共有財産にあたるものをリストアップしてみることが大切!
「なんとなく」で判断せず、専門家に相談して整理するのもおすすめです。
話し合いのときに気をつけたいこと
それぞれのお金について話し合うときは、「請求できる権利」があっても、実際に「受け取れるかどうか」は話し合いや相手の対応次第になることもあります。
① 書面で残す(口約束にしない)
- どんな内容でも「あとで言った言わない」になるのを防ぐために、書面で残すのが鉄則。
- 可能であれば「公正証書」にしておくと、未払いがあったときに強制執行(差し押さえ)も可能。
② 感情ではなく「条件」で話す
- 感情的になると話し合いがこじれがち。
- 「なぜその金額を希望するのか」「子どもがどうなるか」を具体的に伝えると冷静に交渉しやすくなる。
③ 必要な資料を準備しておく
- 相手の収入・資産、子どもの年齢、進学予定などがわかると、現実的な金額での話し合いがしやすい。
- できれば、自分の生活費の内訳もまとめておくと◎。
④ ひとりで抱え込まない
- 相手が強く出てきたときや、うまく話せないときは、弁護士・調停員・支援センターなど第三者の力を借りるのも大事。
⑤ 決まったことを「放置」しない
「いつか払ってくれるやろ」は通用しません!
決めたのに支払いがない、条件が守られていないときは、速やかに履行勧告や強制執行を検討。
財産分与は、お互いのこれまでの協力を形にする“けじめ”のようなもの。
金額にばかり目を向けず、「どうやって築いてきたか」を丁寧に見つめ直すことが、納得のいく話し合いにつながります。
まずは全体像から整理したい方はこちらの記事からどうぞ👇
▶ 離婚で請求できるお金と分け合う資産って?まずはここから整理しよう!
